僕の魔法の使い方

 僕の望みは、魔法が使えるようになることだったんだけど――あ、今笑ったね? ……何が可笑しかったの? 普通の人間が魔法なんて使えるわけがないから? そっか、みんな僕のことを『普通の人間』とも思ってないんだもんね。『普通の人間』は、ここにいるみんなて、僕はみんなとは違う、『普通の人間以外の何か』――ウジ虫、病原菌、負け犬――そんなモンなんだったよね、忘れてた。ごめんごめん。

 

 まあ、でも『普通じゃない人間』の僕にも、魔法が使えなかったんだ。ほら、よく漫画やアニメなんかじゃ、強い意志の力でその人の中に眠る能力が覚醒する、なんてあるじゃない? だから、僕はそれはもう強く願ったんだよ。魔法が使えますように。その魔法で、僕が何でもできる人気者になれますようにって。あ、また誰か笑った? 僕が人気者になりたいなんて、思ったら可笑しいってこと? そうだよね、僕も可笑しいと思う。だからそう願うことはやめたんだ。

 

 でも、それでも僕は魔法に憧れてた。だって魔法が使えればテストで満点も取れるし、ボールだってうまくキャッチできるようになるはずなんだ。ねえ気付いてる? この時の僕はまだみんなと仲良くなりたかっただけなんだってこと。だからそのときに誰かが――先生、安野先生とかが僕のことに気付いてくれたら、僕はこんなことをしなくても済んだんだよ。――今なら、まだ間に合う? そんなの嘘だね。だって僕はもう絶望してしまったんだもの。だから、僕の魔法に憧れる気持ちは、どんどん暗いものになっちゃったんだ。

 

 みんないなくなればいい。そういう気持ちだよ。僕の強い気持ちが生み出す魔法で、みんなどっかに行っちゃえばいい、いなくなっちゃえばいい、僕はそう思うようになったんだ。だって、みんながいなくなっちゃえば、僕は誰に馬鹿にされることもなくなって、何でも好きなことをしていていいんだからね。

 

 でも、いくら強く願っても、なかなか魔法を使えるようにはならなかった。だから、僕は具体的に考えたんだ。みんながいなくなっちゃう魔法ってどんなだろうって。魔法の火の玉が出て、みんな死んじゃう? それとも、地割れが起きて、学校を地球の中に沈めちゃう? そして僕はその様子をどっか高いところから見下ろして、ざまあみろって笑ってやる? そこまで考えた時、僕ははっとした。僕が魔法を使いたかった理由、魔法にこだわった理由に気付いたんだ。

 

 知りたい? 汚い人外の僕の口から出る言葉だけど、みんなそんなに聞きたい? それならいいよ、教えてあげる。それはね――今、こうして考えると、僕が負け犬だったからなんだよね。そう、だからみんなの言うことは当たってたんだ。僕は魔法っていう本当はないものに祈って、起こるはずもないことを想像することで、嫌なことから目を背けていただけなんだ。魔法ってのは僕の願いで、下らない僕の空想だったんだ。だから、そんなものをいくら強く願ったって、何か現実に力が及ぶことなんてあるはずがなかったんだ。

 

 僕は自分が負け犬だって気付いて悲しかった。全部をありもしない魔法のせいにしようとしてた自分が惨めだった。だから、僕は変わろうと思った。魔法なんか使えなくても、僕の気持ちに応えられる自分でいたいと思ったんだ。だから、僕はこうすることにしたんだ。馬鹿なりに考えて、ウジ虫なりに一生懸命ね。

 

 だから、みんなに突き付けているこのナイフは偽物なんかじゃないし、僕はみんなを生かしたまま教室から出す気もない。これまで僕が願った魔法は空想だったけれど、これは正真正銘、現実に起こってることだ。だから、そうだね――皮肉にも僕はたった今、本物の魔法を使ってるとも言える。現実に力を及ぼす魔法をね。ああ、でも、みんなが何もしてくれない魔法や、誰にも聞こえない祈りで生き延びようとしても、僕は止めないよ。もっとも、僕よりもずっと強い力で願わないと、助かる可能性なんてこれっぽっちもないだろうけどね。

 

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