四国の弘法大師様

「ねえねえ、四国には弘法大師ゆかりの観光名所がたくさんあるんだってよ」

 

 会社の出張で四国へやってきた私たちは、その最終日、有休を取って観光旅行を楽しもうとしていた。

 

「え、弘法大師って、『弘法も筆の誤り』の弘法?」

「何か偉いお坊さんでしょ?」

「知ってる知ってる。ほら、お遍路も弘法大師様のやつだとか何とか」

「そうそう。お遍路とか、香川のため池をつくったとか、温泉を発見したとかー」

 

 学生時代に戻ったようにはしゃぐ私たち。

 

「もうとにかく四国を行脚しまくってるから、いろいろしてるみたいだね。井戸掘ったり、寺建てたり……」

「そうなんだ。じゃ、四国の観光名所って弘法大師絡みばっかりなんじゃない?」

「あ、そうかもね。ここもほら、洞窟かなんかだけど、弘法大師ゆかりのって書いてあるし」

「この岩とか、彫刻とか」

「へえ、じゃあこういうところもそうなんですかね」

 

 すると、そのとき同僚の中でも天然(という名の面倒くさい女)で通っている綾子ちゃんが、オススメスポットの一つを指した。

 

 しかし、それを見て、普段なら苦笑いする私たちは、一斉に吹き出した。



 なぜなら、そこに派手な飾り文字で書かれていたのは「四国一のダイビングスポット!」。

 袈裟姿の弘法大師がボンベを背負い、熱帯魚と戯れている姿を想像した私たちの、これは初めての敗北であったのだった。

 

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