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ネット世代の悲しみ

 ネット世代は悲しい――。

 

 そう言うのは健太くん(11)という孫を持つ、○×市の志村末子さん68歳。

 末子さんは夏休みに遊びに来た孫を喜ばせようと、カブトムシが良く集まるクヌギの木を事前に見つけておいた。

 都会育ちの健太くんは、いままでにカブトムシ取りの経験がないことを知ったからだ。

 

 しかし、いざ、日が暮れ、末子さんとクヌギの木に群がるカブトムシやクワガタを見た健太くんは「ふうん」というばかり。

 「見てごらん、こっちには玉虫がいる」、末子さんが言っても、「早く帰ろう」というばかり。

 

 初めて見た光景に感動する心もないのだろうか――心配する末子さんに、健太くんは驚くべき一言を言ってのけた。

 

「だってこんなの、YouTubeで見たもん」

 

 聞くと、YouTubeにはありとあらゆる動画があり、世界のどんな珍しい光景もそれで見ることが出来るのだという。

 「ばあちゃんが見せてやるって電話で言ったのに」と嘆くと、「だってこっちのほうが手っ取り早いもん」と健太くん。

 

 疑似体験で満足し、本物の体験が楽しめない子供の将来を、末子さんは憂いている――。

 

        *

 

「って、ネットコラムに書いてあってさあ」

 

 大学の食堂で私が言うと、彼はむっつり不機嫌顔のまま、「へえ」と生返事をした。

 

「で? 俺がその末子さんだって言いたいわけ?」

「いや、全然! 全然そうじゃなくて!」

 

 私は全力で首を振った。そして、精一杯反省しているという表情を作り、

 

「……ごめんね?」

 

 上目遣いで謝る。

 

「…………」

 

 そんな私を見て、まだ反省の色が足りないと思ったのか、彼は再びそっぽを向いた。

 

「ねえ、ごめん、ごめんってば……私が悪かったよ」

 

 けれど、それでも私は謝り倒した。

 

 だって、彼の地元にしか咲かないという珍しい花。

 その花が見られるとっておきの場所に連れてってやる――そう言われ……いつもの癖でついつい検索してしまったのが運の尽き。

 「ほら、ここだよ」満面の笑みで花を見せてくれた彼に、私は「えーこれだけしか咲いてないの? YouTubeだともっとたくさん咲いてて――」だなんて爆弾発言をしてしまったのだ。

 

 ああ、ネット世代の悲しさよ。

 

 自分の愚かさを呪いながら、私は心の中で名前しか知らない健太くんに呼びかけた。

 

 健太くん! 世の中、YouTubeもいいけど、誰かと体験を共有するって楽しさもあるよ!

 まずはとりあえず、おばあちゃんに謝ろう!

 

 「不機嫌 直す方法」と検索したくてムズムズする手をつねりながら、私は彼に謝り続けた。

 

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